カオスネットワーク 〜動き出す物語〜

1話 カオスネットワーク 〜始まりの合図〜 


なんだろう、この大勝利感。二発目も辞さない構えだ。
僕は気付いたらDMを返していた。

「ぜひぜひ(*^_^*) いつにしましょう?」
「次の土曜スタバの○○で(^O^)」
「りょうかい!」

ニヤつきを隠せない僕がそこにはいた。とてもキモい。キモすぎる。ナイチンゲールも苦笑いだろう。
「僕が? イケてる? イってるの間違いじゃないの?」
明らかに挙動不審になっている。よろしくない。落ち着け、僕。

とりあえず状況を整理しよう、うん。
このフォロワーのリンちゃんさんの友人さんが僕を推しているらしい。
ということは、友人さんは今までに会った方なわけだ。
ということは、誰か特定できるのでは?

「クックック、特定厨の本気の律動、見せてやるよ」



5分もいらなかった。
そいつが一日前につぶやいてたからだ。
なんだこの空回り感。
つかこいつなんでこいつ僕を推してるんだこいつ明らかに囲いだろこいつなんだこいつマジイミワカンナイ

勢い余ってこいつを連呼してしまった。僕としたことが。

この女の子、フォロワー数半端ないしリプがほとんど男オタに対してのところを見ると、なかなかのツワモノって感じだ。
少しリサーチしておこう。

こうして僕は会うまでの数日リサーチに励むことになった。もちろん課題はしていない。
僕は単位を生贄にして女の子とのデートをアドバンス召喚する男だ。


当日、僕は焦っていた。
「あの…ちゃんとした服、買ってなくないですか」
もちろんである。僕としたことが、大学に入ってまともに服なんか買ってない。ユニクロマスターである。
「やばい、やばいぞ…」

ざわ…ざわ…

周りから謎のざわつきが聞こえた気がした。
どうも世界は僕をいじめるのがお好きらしい。

「仕方ない、リーサルウェポンしかあるまい」
やれやれ、僕は服屋に直行した。

いつも通る服屋達、普段は何知らぬ顔で立っているのだが、意識して近づくとまるでバリアを僕のために
張ってくれている、そんな気しかしない。
息苦しいオーラを佇ませながら僕の目の前に立ち塞がる。
何故こんなにもこいつは僕に牙を向けるのか。
しかし、行くしかあるまい、ワンチャンのために。


「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」
「あ…どうも…」

早くも追撃された。
先制攻撃は反則だ。僕はいつものようにバリバリのオシャレ空間とオシャレ店員に打ちのめされていた。アカン。

もうだめぽ…この空間死にそう」
気付いたら謎のつぶやきをキメてしまっていた。
携帯の通知をよく見るとDMが到着していることに気づいた。
リンちゃんさんからだ。

「マサさんどこいますかー?」

天使は僕にリプライを送ってきた。あいにく僕はそれどころではない。
僕は勝負服という名の漆黒の翼を身にまとう必要があるからだ。


「いまお店で服探ししてるよ(*^_^*)ちょっと待ってね(^-^)」


とりあえず時間稼ぎながら早めに買おうとしたところだった。
「あ、あたし付き合いますよ〜(ゝ。∂) どこのお店ですか〜?私探しますね〜(^-^)」


あぅ

やばい


やべぇよやべぇよ

こいつキちゃうよ〜〜〜〜キチャウヨ〜〜〜〜〜〜〜〜〜

僕は軽やかにスルーしながら全力で店員さんにおいてあるセットそのままをくれと頼み購入。

「ふう…」

賢者タイムじゃないのに賢者タイムな感じだった。
ツーアウト満塁ツーストライクからのヒットをなんとかキメた、そんな気分だ。

しかし、誠に残念なことに以下のことがわかった。

リンちゃんさん、どうやら店のすぐ近くにいた。





店を出ると、ふわふわした白いワンピースにブーツを履いた肌の白い黒ニーソ絶対領域完璧な天使がいた。いや、ちょっと盛った。
顔は比較的中の上感を演出しながらファッションでそれを底上げし総合的に上の中クラスに見せている、そんな姿だろうか。
溢れ出る女子、女子、女子オーラに僕は撃墜されそうだった。

「あ、もしかしてマサさんですか〜?こんにちは〜」

声優かよあんた


僕の意識、どーん。






「だ、大丈夫ですか?」
「ご、ごめん。なんか貧血で」
「えええーーーー 病院行きますか?」
「ダイジョブダイジョブ〜」

なんとか一瞬飛んだ意識をしばいて戻すことに成功した。
現実はすさまじかった。事実は小説より奇なりってやつだ。


「お、お待たせしました。スタバ行きましょう」
「はい(*^_^*)」

彼女はとても気遣いの出来るタイプみたいだ。
コミュニケーション力に自信ニキってやつだろうか。僕のようなコミュ障には眩しい。シャイニングサンって感じだ。

「この辺よくうろうろして服買ってるんですよ〜」
「そうなんですね〜」

ここで可愛いですねとかお似合いですね、と言える勇気、来なさい。

女の子と歩く機会のなかった僕はそれはそれはとてもぎこちなかったろう。
明らかにへこへこしてる、ひょろひょろオタだ。
しかし、この場所、僕にとってはデンジャーすぎるゾーンである。
まさにデスをシーしそうなプレース。
もしサークルの先輩にミートしてしまったら今度殺戮のセレナーデがミーをウェイトしていると思うと若干気が気でのっと。ぷりーず。
なぜならここにはゲーセンがメニーメニーだから。

「ごめん。ちょっとルー入ってた」
「え、カレーか何かの話ですか?」
「いや、なんでもないです」

危ない、本当に危ない人になってしまう。言動には気を付けよう。

「マサさんは結構オフ会とかに参加されてるんですか?」
「た、たまにって感じですね。そんなに頻繁ではないかな」
「わたし、結構参加してたんですけど、周りの人が怖くなってきて最近控えてます(ゝ。∂)」
「な、なんと…お気を付けください」
「ありがとうございます♡」

彼女は少し俯きながら、僕に笑顔を見せた。少し意味ありげな顔だった。
おそらく何かあったに違いない。しかし、そこに踏み込めるほど僕は勇気をお持ちでなかった。
ネット界の闇を少し垣間見た。

勇気はよこい



そうこうしてるうちにスタバについた。
スタバといえば、僕は最初に来たとき名前で詰んだ記憶があったが、今回は大丈夫だ。たぶん。
何人か並んでいたので、しばらく待ったがついに僕らの番が来た。よし。


「ダークモカチップフラペチーノチョコソース追加ホイップ増量トールでお願いします♡」


だめだ、格が違う。


「キャ、キャラメルフラペチーノトールで」
「かしこまりました〜」


これが…真の女子力…!! 圧倒的ッ…!! 為す術なしッ…!!!


「すごいですね。一瞬ほかの言語かと思いました」
「何言ってるんですか(>_<) 日本語ですよ〜」

こんなしょうもないやりとり、砂場をものすごい勢いで掘ってる感じだ。
砂場を掘り続けたらマントルにたどり着くんじゃないかとかいろいろ小さい頃考えていたが、まあ地殻にぶつかるだろうな。
すごいどうでもいいことを考えながら、僕はキャラメルフラペチーノを飲んでいた。
彼女はとても楽しそうに自分の飲み物を攻略していた。

しばらく彼女と雑談して解散することになった。どうやら他の人とも会うらしい。
お姫様はみんなのアイドルらしいからな。忙しいに違いない。

「今日はありがとうございました(((o(*゚▽゚*)o))) またお会いしましょう(*゚▽゚*)」
「こちらこそ、今日はありがとうございました。」
「私のほうが年下だと思うので次からは敬語大丈夫ですよ〜(^-^)」
「わ、わかりまし、…わ、わかったよ」
「よろしくお願いしますね〜」

そう言って彼女は小走り気味に去っていった。
小動物好きならわかるだろうか、この気持ち。

僕のハートはブレイクしていた。
これは、たぶん例のヤツだ、と。
ヤバイな…これはやらかしたかもしれんぞ。

男オタクに限らず、モテない男子、総称非モテの人たちはちょっと優しくされると恋に落ちてしまう傾向がある。
これは非モテコミットメントと呼ばれ、恋愛の失敗の方程式の解らしい。奇しくも僕はもうこの方程式に挑み始めるみたいだ。

そこに解はないと知らずに…